函館に里帰りしています。里帰りとはいえ、過去の思い出を回収する旅にもなるだろうと思っていた今回の帰省。さっそく懐かしい場所で想いを馳せることになりました。長年、函館駅前の顔を担ってきた、棒二森屋です。幼い頃、祖父母に連れられてこの老舗デパートへ行きました。ここに来ることは非日常的なイベントで、幼いながらも特別感が嬉しかったのです。
久しぶりのボーニさん(函館市民は、親しみを込めて棒二森屋を「ボーニさん」と呼ぶ)なので、目的の食堂が本館かアネックスのどちらにあるのかわからず、暫しフロア案内を見入りました。最上階にあったような記憶は正解で、本館7階にレストランがありました。んー、でも、レストランっていう感じの雰囲気ではなかったような。
本館7階に到着すると、同フロアの催事場には何にもなく、がらんとした寂しい景色。その奥に「レストラン和家」がぽつんとありました。ボーニさん、過疎化し過ぎて寂しいわ... レストランもどことなく寂れた雰囲気で、入店するのを躊躇うほど。
入り口にはこの時期にオススメのランチメニューが並べられています。函館駅前の立地にありながら、函館の特産品を取り入れた観光客ターゲットの食事ではないことに好感です。ボーニさんは函館市民のためのデパートなのです。価格だって函館市民向け。
お店の外にあるメニューも見覚えがあります。昔もこうしてどれにしようか眺めていたなぁ。でも写真ではなくて、確か食品サンプルだったような... 色あせたセピアな光景は、頭の中に急に降りてくるものですね。細かいことも覚えているもんです。
メニューの端っこまで辿り着いたとき、懐かしいメニューが目に入りました。それは、ホットケーキ。わたしはボーニさんでホットケーキを食べるのが好きでした。メニューだけ眺めてボーニを後にしようと思ったけれど、このホットケーキに惹かれて入店を決めました。おじいちゃんおばあちゃんと食べに来た味でなくてもいい。今ここで食べねば後悔する気がしました。
店内に入ってすぐのレジで先に食券を購入するようです。メニュー表を眺めながら、レジの店員さんに「懐かしくて食べに入った」と伝えると「そうですよねぇ、今は名前も変わっちゃって」と函館弁で返してくれました。
席は好きなところに入っていいそうです。空いていた窓際のテーブルへと向かいます。席によっては函館駅方面を眺めることができるみたい。わたしは電車通りから一番離れたテーブルだったので函館駅は見えず、代わりに昔のWAKOデパート跡地に建てられたキラリス函館が丸っと見えました。
着席してすぐに、フロア係が食券を取りに来てくれます。昔の食券は切り取り線が入ったタイプだったと記憶しているけれど、今は仕様が異なります。店内を眺めると、照明は最近のものっぽいものの、内装やテーブルの感じは昔と変わらない印象。ここはレストランではなく、デパート最上階の食堂だわ。広くて大勢の人が食べに来ていてガヤガヤしているような、当時はそんな場所のように思いました。
幼少期、棒二デパートにやって来て、いくばくかのお小遣いを小さな手に握りしめ、ゲームセンターへ向かいました。ゲームで高揚した気持ちのままこの食堂で休憩して帰る。いつも、そんな流れでした。その時に食べていたのが、このホットケーキ(330円)。当時、ドリンクはつけていたのか、つけていなかったのか。つけたとしてもきっとソーダフロートとかそういうものだったでしょう。今はホットコーヒー(390円)を合わせる程度には大人になりました。
このボーニさんのホットケーキ。小さな頃も2枚だったと思います。四角いバターは記憶にあるけど、メープルシロップは付いてたっけかな。
昔のようにバターを乗せ、添えられたメープルシロップを垂らします。
ほんのり甘い香りのホットケーキ。バターの塩気とメープルシロップの甘さが混ざり合う、今でも好きな味です。わたしがホットケーキが好きなのは、きっとこの食堂を起源としているはず。30年という時間の経過とともにお店は変わり、それに伴いホットケーキの味は変わってることでしょう。もしかすると、業務用の冷凍物をチンしただけかもしれません。でも、それでいいんです。わたしは幼少の記憶を辿って、ここのホットケーキを食べたかったのだから。
記憶の中のおじいちゃんおばあちゃんは60歳前後でまだ若いまま。あれからあっという間に時間が過ぎて、生きているのは90歳過ぎの祖父だけになりました。なんだか無性にノスタルジックな気持ちになり、鼻の奥がツンと痛みます。それをコーヒーで紛らわせても、睫毛が濡れてしまいました。ホットコーヒーは優しくまろやかな酸味。お茶受けのクッキーに、おもてなしの心を感じます。
ということで、函館駅前の棒二森屋本館7階「レストラン和家」に行ってきました。実家に戻り、両親にボーニさんに行った話をすると「棒二ももうダメだわ」というショッキングな言葉を返されました。え、どういうこと?と調べてみると、なんと閉店検討がされていたとは...
実際訪れてみて、建物の古さ(フロアの天井が異様に低く感じる、つまり今時の圧迫感がないデザインではない)や買い物客の少なさ、活気のなさ、設備の古さ(問題はないらしいが、稼働中のエスカレーターから異音がする)など、寂れた現実を目の当たりにして違和感があったのです。だってここは函館駅前の好立地なはずなのに。思い出のホットケーキを食べながら涙ぐんでしまったのは、もちろん祖父母との思い出のこともあったけれど、市民に愛されたボーニさんの廃れた現実が悲しかったのかもしれません。異様にノスタルジーを感じました。
自分の思い出がいつまでも存在する約束はなく、それはボーニさんだけでなく故郷・函館にも通ずることなのかもしれないな、とブルーになった里帰り前半です。
終わり。
【2018年9月30日追記】ボーニさんの閉店が決まっていた。
今朝、こちらのツイートを目にしました。わたしが書いた1年前の記事をシェアしてくださった方がいらしたのですが、ツイートに「閉店前に」と添えているのです。これが引っかかって、ボーニさんの公式サイトへ飛びました。
自分と同じようなことしてる人見つけた。閉店前に来られてよかったね。 https://t.co/PuTohAoGYX
— tokiharu noto (@noto) 2018年9月30日
すると、なんということでしょう。2019年1月31日に閉店すると、公式サイト上にはっきりと、しっかりと明記されているではないですか... 函館の発展を見守り、市民に愛された百貨店が、時代の波に揉まれて老いて朽ちて行く様は、なんとも刹那的であります。函館の百貨店は、残すは丸井さんだけなのですね。栄枯盛衰という言葉以外に見当たらず、これもまた明治・昭和・平成の終わりを告げる出来事のひとつに感じてなりません。
住所:〒040-0063 北海道函館市若松町17-12
(*・ω・)つ 北海道食べ歩き情報もどうぞー♩