日本最大霊山の1つ、恐山へ行ってきました。ただ行って物悲しい風景を見るのではなく、恐山菩提寺に宿泊もしてきました。恐山には宿坊があり、食事もできるし、湧き出る温泉に入ることもできます。こうしたお寺の宿坊に泊まるのは初めての体験です。宿坊滞在とは、いったいどんな感じなのかな。
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恐山に宿泊!宿坊「吉祥閣」の滞在レポート。
宿坊「吉祥閣」の場所。
恐山の宿坊「吉祥閣」は、恐山菩提寺の敷地内にあります。宿坊というのはお寺の中にあったり、お寺とは別の建物として用意されていたり、それぞれのお寺によって異なるそうです。今回利用した吉祥閣は恐山の総門の内側にありますが、お寺とは異なる建物でした。
宿泊料と予約方法。
吉祥閣の宿泊費は、1泊2食付で12000円/人です。わたしがひとり旅をする時に、この金額で予約することはほぼありません。今回は初めての宿坊で、行ってみたかった恐山ということで即予約をしましたが、いろいろ調べてみると宿坊でこの宿泊費というのは、少し割高なようです。それもそのはず、宿坊とはいえ吉祥閣は随分と立派な建物です。恐山、すごいわ...
ちなみに宿坊の予約は、吉祥閣に直接電話して申込みを済ませます。電話をすると名前・予約日・人数などを確認され、チェックインの最終時間(17時)も案内されるので、余裕を持って到着しましょう。
建物内部へ。
それでは吉祥閣の内部に入ってみます。入り口には「ご参拝の皆様へ 宿泊以外の入館はご遠慮願います」という張り紙がありますが、宿泊予約しているので、そのままお邪魔します。
エントランスに入ると、右手に傘立て。いくつか同じ柄の傘がありました。これ、吉祥閣の傘なので宿泊客はお借りできます。傘を持たずに旅に出てしまい、雨模様に困っていたので使わせてもらえて助かりました。
こちらがエントランス。入って驚きました、めちゃくちゃ広いんです。初めての宿坊がこれだと、全てがこうだと勘違いしそうなほど豪華... そりゃ宿泊費も高いはずだわ。上がって左手に靴箱があるので、そこに預けて奥に進みます。
エントランス奥の壁に展示された仏像。仏教とか全然詳しくないけれど、どこかありがたみを感じます。
こちらが吉祥閣のフロント前。ロビー的な場所でしょうか。天井も高く、とにかく広々としていて、この写真だけ見るとお寺の宿坊ではなく、高級旅館にしか思えないのでは。
こちらがフロントです。ゴテゴテとした装飾がなく、嫌味なく立派。
ここでチェックインを済ませます。チェックインと同時に宿泊料12000円を支払いました。クレジットカード払いはなく、現金のみ。また、恐山全体と宿坊の簡単な案内と、宿坊での過ごし方について説明がありました。
1日のスケジュールときまりごと。
宿坊 吉祥閣での過ごし方は、一般的なホテルや旅館のそれとは異なります。自分の都合で割と好きに過ごせるホテル・旅館とは違い、お寺の敷いた食事時間・消灯時間・お勤め時間があり、少しだけ制約があります。でもそれ以外は自由に過ごせるので、ガッチガチに厳しいというわけでもありません。
割と細かく決められているスケジュール。
わたしが滞在した1泊2日の大まかなスケジュールを記載してみます。自由時間も多くありますが、最終チェックイン・食事・消灯・起床・朝のお勤めなどが決められていて、完全に好きなように動けるわけではありません。
1日目
14:00 チェックイン開始(夕食まで自由時間。大浴場も利用可)
17:00 最終チェックイン
18:00 夕食
18:30 自由時間
22:00 館内消灯(玄関・ラウンジ・ロビー・浴室・廊下等)
2日目
5:00 大浴場の利用開始
6:00 起床
6:30 朝のお勤め
7:30 朝食
8:00 自由時間
10:00 チェックアウト
宿坊ステイでは、守るべき決まりごとも。
宿坊はホテルや旅館ではありません。あくまでも参拝者のための宿泊施設です。もともとは僧侶が宿泊する場所であり、参拝者の心身を清める場所ですので、設備やサービスを求めてはいけません。でも安心してください、常識的なことばかりで、それほど難しいきまりはなかったです。詳細は、チェックイン時に手渡されたこちらの案内でご確認を。
一応、気になったきまりごとについてはテキストベースで書き残しておきます。
滞在中のきまりごと(抜粋+主観)
宿坊の客間について(部屋の様子、アメニティなど)。
フロントから鍵を受け取り、客室へ向かいます。この日は吉祥閣2階の端雲11というお部屋に滞在しました。こちらは2階の客間に向かう廊下です。客室の間隔は広いし、通路の奥までものすごく遠く感じました。
こちらが滞在した端雲11というお部屋の入り口です。純和室の作りに、温泉旅館にやってきたような感覚を覚えました。
こちらが客間です。お部屋は2つ、15畳+4.5畳という大広間にたった1人で滞在です。贅沢すぎやしませんか。温泉旅館でこの広さに1人滞在だったら、宿泊料12000円では収まりませんよね。1人滞在は珍しくないそうですが、おそらくグループ利用を目的に作られたはずです。このお部屋には最大10人ほど泊まることができます。
お部屋の入り口側から、15畳の客間を見た絵です。部屋の2〜3箇所にコンセントがあったので、電子機器類の充電には事欠きません。客室には冷蔵庫やテレビなどはありません。飲み物・食べ物の持ち込みは禁止されていませんが、要冷蔵の食べ物を持ち込んでしまうと時期によっては傷んでしまうかも。
窓の外には寺務所が見えます。
客室にあった供養料や祈祷料の料金表。
アメニティ類は最低限のものがありました。といっても、全て持ち込まなければならないと思っていたので、あるだけでありがたく思ったものです。アメニティは浴衣、フェイスタオル、バスタオル、歯磨きセットでした。
紫の袋に入った歯磨きセットとフェイスタオル。フェイスタオルはこの他にも洗面所に設置がありました。おそらく手拭き用だと思いますが、何かと重宝しました。
玄関部分にはポットと急須などがあり、自由に使うことができます。
こちらは洗面所。洗面台が2つあるので、1人滞在では持て余しました。グループ利用の場合は、待ちが少なくて良さそうですね。
お手洗いは余裕のある作りです。水洗式ですが、ウォシュレットはありません。
スマホの電波がかなり弱かった。
恐山に入ってから、常に気にしていたのはスマホの電波。山中や参拝中、地獄めぐりをしている時には電波バリバリでした。しかし、宿坊 吉祥閣の客室に入ってからは、電波だいぶ弱くて。外界に近い窓際であれば電波は4〜5本立つのですが、部屋の内側に来ると圏外になってしまいます。仕方ないので窓際の襖にスマホを起き、テザリングでPC作業を行いました。
宿坊の共有スペース。
ここから先は、宿坊の共有スペースについて。吉祥閣の共有スペース(ロビー、食堂、大広間、大浴場など)は1階部分に集まっています。
こちらはフロント奥にあるロビーです。ちょっとしたお菓子もおいてあって、滞在中は自由につまんでOK。
仏教系の雑誌もいくつか並んでいて。パラパラとめくると、シャーマンキングという少年マンガのヒロイン・恐山アンナに触れていたんですね。862年に開山した時にはそんなことになるとは思わなかったろうなぁ、これだけ歴史のあるお山なのに、少年マンガも受け入れるその懐の広さに脱帽です。
こちらは昔の御朱印だそうです。
ロビーにはテレビも1台置いてあり、そこでは2014年に放送されたNHKの番組「ドキュメント72時間 恐山 死者たちの場所」が繰り返し流されていました。
吉兆閣には売店があるようなのですが、営業時間がよくわからず、何も購入しませんでした。唯一、この自動販売機でお茶を買ったくらいかな。
こちらは2階にあった休憩スペース。座幅に余裕があっていい感じ。こういう共有部分に灰皿がないのが嬉しいです。
大浴場の温泉に入ってみた。
恐山には温泉が湧いています。敷地内の5箇所の温泉のうち、1つはこの宿坊 吉祥閣に宿泊している人だけが楽しめます。それがこちらの大浴場・御法の湯(みのりのゆ)です。大浴場は男女別で、今回は女湯のレポートです。
入浴時間する注意がいくつかあります。恐山はイオウ泉なので、長湯は禁物。3〜10分を目安に入浴するよう書かれていました。また換気と、浴槽のお湯で洗顔しない(目に入れない)、お湯を飲まないとも書かれていました。
こちらは脱衣所と、その奥にある洗面所。洗面所は最低限の設備で、メイク落としや化粧水・乳液などはありません。でもドライヤーは用意があったので、大満足です。髪の毛が長いので、ドライヤーがない施設は辛い。
大浴場の洗い場にはボディーソープとリンスインシャンプーがあります。洗い場の数も20近くあったでしょうか。こういう大浴場に来ると、修学旅行を思い出すなぁ。
こちらが御法の湯の内湯。大きく立派な内湯が1つで、窓の外のダイナミックな山景色がとても良いです。夜になると真っ暗で何も見えません。
湯色は青がかった弱白濁。場所によって温度が高かったので、温度の低そうな端っこで温泉を楽しみました。
温泉に入ったのはいつぶりだろう。恐山の閑散期とあって、この日の宿泊客は少なかったようです。大きなお風呂を独占状態で楽しみました。が、お風呂上がりに気が付きました。右手につけているシルバーの指輪が黒く変色してしまった!焦って左手を確認します。プラチナのマリッジリングは変色しておらず、ホッとしました。シルバーの指輪の変色は、特に磨くことせず、このあと2〜3週間で元通りになりました。次回から温泉に入るときはアクセサリーを外そうと思います。
夕方18時、精進料理の夕食をいただく。
宿坊に滞在する楽しみのひとつは、お寺の食事ではないでしょうか。精進料理という言葉は何度も耳にしたことがあるけれど、今回初めて本物の精進料理をいただきました。夕方18時の少し前に館内放送が流れ、滞在客は食堂前に集められます。この食堂、300人は入りそうなほどの大きさ。
18時、食堂へ。ステージも併設されています。
このまますんなり食事が食べられるわけではありません。恐山菩提寺の僧侶の方が1名いらっしゃり、食前に「五観の偈(ごかんのげ)」を共に唱えます。五観の偈は箸袋の裏と、席に置かれた紙にも書かれていました。ふりがなはあるけれど、不慣れな言葉使い・読み方につっかえながら音読します。
五観の偈をより理解するために、解説文も添えられていました。
- 食事五観の解説
一つには功の多少を計り彼の来所を量る。
(解説:このお米は八十八回と言われるほど大変な苦労を重ねて出来たものであり、この食膳に上るまでに沢山の人の手を経て今始めて戴けたことにまず感謝する)
二つには己れが徳行の全缺を忖って供に應ず。
(解説:私は今この食事を戴けるほど日夜努力しているかどうか反省する)
三つには心を防ぎ過を離るることは貧等を宗とす。
(解説:お腹が減ると怒りっぽくなったりしてとかく過ちを犯しがちなもの、そうかと言っておいしいから沢山食べ、嫌いなものだからと言って少しでやめたりはしない。)
四つには正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為めなり。
(解説:食事をすることは、薬を戴くのと同様で、やせ細ったり命が絶えたりしないために戴くのである)
五つには成道の為めの故に今此の食を受く。
(解説:自分自身の本分を全うし、よりよき人間として素晴らしく生き続けるために今この食事を戴きます)
五観の偈を唱えた直後なので、より一層、この夕食が大切に感じられます。お米の出来上がりまでに感謝することはもちろん、この食事を食べるに値するほど努力して生きているだろうかとか、好き嫌い・食べ過ぎ・よりよく生きるために食べるだとか、そんなことは考えずに生きてきたなぁ。
反省しながらも、朱色に映える精進料理に興味津々。よく深い人間なのです。
箸袋の中からお箸を出すと、そこには「霊場 恐山」の文字。このお箸は食後に部屋へ持ち帰り、翌日の朝ごはん時にも持参しなければなりません。その後は持ち帰ってOKです。
精進料理とはいえ、一汁七菜と豪華。ごはんのおかわりは自由だし、さらにはデザートのフルーツもついてきます。野菜ばかりですが、いろんなものを少しずつ。味付けもごはんが進む濃いめ。これは東北だからなかな。甘い、しょっぱい、酸っぱいがあるし、食感も様々。ごはんのおかわりは年代・性別問わず、皆さんされていました。ボリボリの汁物と、大根のあんかけが特においしかったな。
食事中は食堂を去っていたお坊さん。20〜30分ほど経過したところで食堂に戻られ、食後の偈を唱えて食事が終了です。
- 食後の偈
願わくはこの功徳を以って、普く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆共に仏道を成ぜんことを。(ごちそうさま)
夕食後は自由時間。
食後は、消灯の22時まで自由に過ごすことができます。吉祥閣の大浴場に入ったり、宿坊外の温泉へ向かったり。天候が良ければ閉門後の恐山を歩き回りたかったのですが、雨で足元が悪く、また「熊に注意」の看板も見ていたので、ほとんど客間で過ごしました。22時の消灯後、客間で起きていても問題がないので、寝入ったのは日付が変更した後だったと思います。
翌朝6時半、宿坊滞在者のお勤め。
翌朝。6時に恐山菩提寺は一般向けに開門されます。この時間には誰もいないだろうと思ったら、何名か参拝者がいてびっくり。
お山の朝は早く、早いもので朝6時に祈祷・塔婆供養が開始されるんですね。
宿坊滞在者も朝が早いです。朝6時に館内放送で起床の呼びかけがあり、そこから身支度を整え、6時半から朝のお勤めへと向かいます。この廊下は宿坊を出て本尊安置地蔵殿へ向かう長い廊下です。一般の参拝客は立ち入ることができません。
この先の地蔵殿内部は撮影が禁止されているので、写真はありません。地蔵殿ではお坊さんたちの般若心経の読経があり、その後宿泊客の住所と名前を読み上げた家内安全・健康祈願がありました。祈祷料支払っていないので急に名前を呼ばれて驚いた!宿泊料にはこの祈祷料も含まれていたのですね。その後、地蔵殿の本尊を見せていただき、地蔵殿横の薬師堂の内部も拝見。もう1箇所の本殿ではご先祖様への供養の読経がありました。急に焼香が回ってきたので何事かと思いました。恐山菩提寺が属する曹洞宗はこれが普通なんでしょうか。曹洞宗どころか仏教に疎いので、周りのマネをしてお勤めをこなしました。
朝7時半、精進料理の朝食をいただく。
朝のお勤めを終え、清々しい気持ちのまま朝7時半から朝食です。。食事の前に、お坊さんと共に五観の偈を唱えます。前夜に使った箸を忘れずに持ち込みましょう。朝ごはんは一汁6菜。フルーツもついてるし、ごはんも食べ放題。お出汁をたっぷり含んだガンモも、酸味のある茄子の煮物も、小皿のおかずもどれもおいしかったなぁ。20分後くらいにお坊さんが戻ってきて、食後の偈を唱えて食堂を後にしました。
チェックアウトまで自由時間。
朝ごはんの後、チェックアウトの10時までは自由時間です。温泉に入っても良いし、恐山菩提寺への参拝や地獄めぐりをしたって良いのです。天気が良ければもう一度、宇曽利湖や周辺散策をしたかったのですが、滞在中はずっと雨で晴れる予報もなし。仕方ないので、次の旅先へと早々に向かうことにしました。朝8時半すぎに荷物をまとめてチェックアウトです。フロントで鍵を返し、宿坊ステイのお礼を告げて、レンタカーのある駐車場へ向かいました。
まとめ
ということで、恐山菩提寺にある宿坊「吉祥閣」で1泊2日してきました。生憎の雨でいくつかやりたいことができませんでしたが、初めての宿坊ステイには満足しています。恐山での宿坊ステイでよかった点は、以下です。
7月の大祭典や10月の秋詣りの繁忙期に訪れる場合、長蛇の列で何時間も待たねばならないイタコの口寄せに、開門前から並ぶことができるというメリットもあるかもしれません。
尚、恐山だから霊的な何かを察しただとか、あんなに大きな客室に一人だから怖かっただとか、そういう類のことは一切ありませんでした。音がなくしんと静まり返り、そして色味も味気ない恐山は物悲しさを覚えます。そこにある豪華な宿坊 吉祥閣です。この宿坊がオンボロで苔むした建物であったなら、余計に怖くて近寄りがたい場所だったろうなぁ。質素ながらも、ある程度の設備を備えた宿坊でよかったです。恐山のおかげで、宿坊に興味が湧いたので、またどこかに滞在してみたいと思います。
終わり。
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