「恐山」を知っていますか。沖縄移住してから、何人かの人にそう問いかけるも、知らないという声が多くて驚きました。本州最北端の下北半島に位置する恐山は霊峰として有名で、テレビ番組でも特集されやすい場所です。函館生まれの私からすると、津軽海峡を隔てた場所に恐ろしい名前の山があることは、小さな頃からよく知っていました。でも待てよ、恐山は怖いものと勝手に思っていたけれど、実際はどんなところかさっぱりわからないぞ。うーん、じゃあ、この目で確かめて来ようかな。そんなライトな動機で恐山へ行ってみたレビューです。
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日本三大霊場「恐山」を訪れた。
「人は死ねばお山さ行く」。これは青森県下北地方に伝わる言葉だそうです。亡くなった人が行くお山とは、もちろん恐山のこと。恐山は古くから死者の魂が集まる場所として信じられ、またそれらを供養するために参拝する人が絶えないというのです。実際恐山を訪れてみると、泣く子も黙る恐ろしい霊峰というよりも、無機質で彩度の低い風景が妙に物悲しい、そして静寂に包まれた場所でした。
ちなみに、日本三大霊場とは今回訪れた青森県の恐山、比叡山・高野山の3つの山のこと。いずれもお寺や神社があり、巡礼地となっています。
恐山の場所。
恐山は、青森県の右半分にあたる下北半島にあります。マサカリ形のような地形の中心です。距離感はざっくりですが、むつ市内から14km、大間から60km、青森市から110km、八戸市から115kmとなっています。ちなみに「恐山」とは言いますが、そのような名前の山はありません。いわゆる恐山がある場所は、主に宇曽利湖のほとりの恐山菩提寺周辺です。この湖を8つの山がぐるりと囲んでいるのですが、そのあたり一体を恐山とも呼んでいるそうです。つまるところ、恐山は山奥にあるわけで、軽い気持ちで立ち寄れる場所ではないのです。
参拝期間・時間が決まっている。
山奥にある恐山は1年中訪れられるわけではありません。参拝期間は毎年5月1日〜10月31日までとなっています。冬季は恐山だけが閉鎖しているわけではなく、恐山へ向かう県道4号も積雪で閉鎖されるそうで、この間は車の通行ができなくなるそうです。ただ、冬場でも徒歩で向かうことはできるらしいです。シロウトにはオススメできません。春になるまで待ちましょう。ちなみに、参拝時間は6〜18時までとなっています。
一般的な交通手段と、険しい山道。
山奥にある恐山までどうやって行くかというと、一般的には
・バス(路線バスと観光バス)
・タクシー
・車(自家用車とレンタカー)
の3択になると思います。ペーパードライバーのわたしは当初バスを予定していましたが、スケジュールと恐山での過ごし方に合わせると、路線バスも観光バスも都合が悪いことがわかりました。そのためレンタカーを予約して、大間から恐山まで60kmの道のりを不慣れな軽自動車で走ったのです。
大間→むつ市内までも結構な狭さの海岸線で、ペーパードライバー的にはしんどかった。でも、むつ市内→恐山までの曲がりくねった険しい山道が更に厳しかった...
時折の大雨で視界は悪いし、不慣れなレンタカーで事故るわけにもいかないし、神経をすり減らしながら走らせました。山中にある「霊場恐山」と書かれた門もあったけど、止まれずに素通りです。
こちらも見逃したけど、近くに1杯飲むと10歳若返る湧き水があるらしい。この湧き水は「恐山冷水」と呼ばれていて、この辺にあるそうです。
山道を登り切ると、三途の川がお出迎え。
本格的な山道は9kmほどあり、ワインディングロードを抜けると空が開け、やがて赤い橋が現れました。この橋の下には、あの三途の川が流れています。大雨で降りられず、車中からの撮影です。
三途の川を渡り、先に進むとバス停がありました。こちらが下北交通の路線バス「恐山」停留所です。このバス停のすぐ先が、恐山菩提寺です。
恐山菩提寺を参拝する。
そんなこんなで、あの恐山に到着です。いわゆる恐山とは恐山菩提寺を指しています。なので、ここから先は山奥の立派なお寺さんの話になります。
恐山菩提寺の総門には、特別祈祷(健康、就職、就学、良縁など)と供養(先祖供養、水こども養など)の案内がありました。わたしの恐山のイメージは、後者の供養です。特に水こども養は、テレビの絵として見た記憶があります。丁寧にも御朱印があると書かれていたので寺務所へ向かったのですが、御朱印帖には手書きですが紙でもらったところプリントして日付だけ手書きというものがやってきました。こればかりは残念だった...
こちらは、総門の左側にあった来迎の像。
この案内板によると、恐山の本尊伽羅陀山地蔵大士と、奥の院地蔵山不動明王、そして奥の院釜臥山嶽大明神本地釈迦如来が一直線上に奉納されているんだそうです。すなわち、これら三者は一体であるので、3箇所すべてお参りすることで、恐山参拝の結願が成就するというのです。
左手奥には、大きな六大地蔵。
総門の右手には、売店とお食事処「蓮華庵」。
恐山と言えば風車ですが、あれはどこで買うのかな?と思っていたところ、この売店で販売していると現地に行って初めてわかりました。
総門前で色々確認してから、入山受付所で入山料金を支払います。入山料は大人1人500円、小・中学生1人200円。20人以上の団体さんには割引もあります。出入りする時は確認が必要とのことでした。
総門を潜ると、山門へ向かう参道が。
山門と豆絞りをかぶったお地蔵さん。
山門の扁額には「霊場 恐山」と。色味といい、フォントといい、やはりどこか恐ろしい。
山門をくぐると、本尊が安置されている地蔵殿がみえてきました。
参道にある手水舎には、異様な亀。小銭をたくさん咥えさせられていますが、それ以上に違和感のある形状です。手水舎の向かい側には、お守りなどが売られる売店がありました。
こちらが、恐山の本尊安置地蔵殿です。外観は問題ありませんが、内部は撮影禁止。
地蔵殿の向かって左手側に、何かの像と、積み上げられた平べったい石、そして風車がありました。この風車だけが妙に艶やかなのです。
これより先、地獄めぐり。
地蔵殿の左手から奥側には、真っ白い世界が広がっています。この日は空模様も悪く、より一層、無機質に感じます。階段を登り、小高いところに出ると...
この世とは思えない独特な眺めに息を飲みました。この積み石の光景、言葉が出ません。
ジャリジャリという歩く音を聴きながら、風車に囲まれる慈覚大師堂にたどり着きました。
このお堂、近づくと草履がくくりつけられています。亡き人が無事にあの世へ旅立てるよう、お供えした草履です。
一般的なお寺はお線香がお供えされます。しかし恐山は、そこかしこに硫黄の臭いが立ち込めてます。周辺では常に硫化水素が噴き出しているため、線香やロウソクなどの火の取り扱いが禁止されているのです。なので、それに代わり、風車や草履を手向けるのですね。
歩きながら、童顔のお地蔵さんを見かけました。どこか我が子を思い出します。
賽の河原。本山栄一という歌人の「人はみな それぞれ悲しき過去持ちて 賽の河原に 小石積みたり」という歌が刻まれた石がありました。
親より先に死んでしまったこどもが、この世へ残して来た父母への供養のために、賽の河原で積み石をして塔を作る。しかし、あと少しというところで鬼がやって来て、せっかく積んだ石を壊してしまう... 流れる川が硫黄色で見慣れぬ景色です。
先に進むと、こんな立て札。お札を流す行為も、あの世へ旅立つためのお供えなのだろうか。
八角円堂にやってきました。八角円堂の内部にはお供え物や服がずらりとあって、撮影も憚ってしまうほど近寄りがたい雰囲気でした。
八角円堂の裏手に血の池地獄への案内があったので進みます。
すると「熊に注意!」の看板も。血の池地獄へ命がけで向かいます。
こちらが血の池地獄。時折、池が真っ赤になることがあるそうです。この日は普通の水だったのですが、そういえば池の周りの石が赤みを帯びているなぁ。
雨水を滴らせる、オレンジ色のオニユリ。
水こども養御本尊を取り囲むように手向けられた風車は、静寂の中、カラカラとかすかな音を立てて回り続けます。
熊に注意の看板もあれば、まむし注意の看板も。
雨に濡れた蜘蛛の巣にも哀愁を感じます。恐山の地獄にも蜘蛛の糸は垂れるのでしょうか。
こちらは胎内くぐり。地獄を抜けて転生し、新たに生まれ変わるという意味を持った場所です。
しかし、まだ地獄が続きます。重罪地獄。
金掘地獄には、変色した小銭がありました。ただのサビではなく、そこかしこから吹き出す硫黄の成分と化学反応して変色したような、そんな色。
そろそろ地獄めぐりも終盤です。この小道の奥には...
小高い五智山展望台からの眺め。右奥に宇曽利湖が眺められます。
五智山展望台には五智如来が祀られています。
極楽浄土とも言われる宇曽利湖。
地獄めぐりと対局にあるのが、極楽浄土のように美しいと言われる宇曽利湖。宇曽利湖はただの湖ではありません。強い酸性のカルデラ湖で、そんな条項下で唯一ウグイだけが生息しているそうです。酸が強く他の生物は存在できないんだって。
この日のお山は雨模様。雨雲も宇曽利湖付近まで降りていて、空と水面の境目がわかりにくい。残念ですが、その美しさを十分堪能することは叶いませんでした。
宇曽利湖近くには、東日本大震災の震災慰霊塔がありました。
地獄めぐりの後、本殿周辺を散策。
地獄を巡り、極楽とも言われる宇曽利湖を見て、参道付近に戻ると、近くに恐山の本殿がありました。この木造の建物の中には大聖釈迦如来が安置されています。地蔵殿と同じく、内部は撮影が禁止されています。
本殿の左隣には、このような休憩所がありました。誰でも中に入って休むことができるらしい。
休憩所に入ってみると、何十畳もあるただっ広い室内。恐山に人が訪れるピークは毎年7月20〜24日に行われる恐山大祭と、毎年10月上旬の3連休の秋詣りです。この時期は、きっと多くの人がここを訪れ、体を休めるのでしょう。
本殿の近くには、高さ3m近くありそうな巨大な卒塔婆がありました。真っ黒な卒塔婆の上にはカラスが羽を休めています。そういえば、恐山には鳥がいません。そういえば、雨のせいか偶然か、卒塔婆付近以外では野鳥やカラスを見かけなかったなぁ。
本殿の真向かいに寺務所があって、その裏手に鳥居を発見。
階段を登り、丘の頂上に向かって登って行くと龍神堂と稲荷大明神がありました。
入山料を払えば誰でも入れる温泉も。
恐山の中には、温泉が4箇所あります。これも現地で知ったことですが、入山料さえ支払えば、誰でも何度でも入ることができるんだそうです。恐山の参道脇にあるこちらの木造小屋が、その温泉です。恐山には5つの温泉があり、昔から「薬湯五湯」と呼ばれていたんだとか。
こちらは冷抜の湯(ひえのゆ)。この日は女性用でした。中に人の気配を感じ、入るのを躊躇う...
古滝の湯も女性用。こちらは勇気を出して建物内に入ってみることに。
引き戸を開けると、誰もいませんでした。ホッとしつつも、浴槽と脱衣所に目隠しになるものがないこと、そして洗い場がないことが気になりました。これは慣れてる人じゃないと入れないぞ。湯加減は熱め。あと、タオル持参で来なきゃね。
古滝の湯に張り出されていた入浴に関する注意書きです。きっとどの湯にもあるんだろうな。イオウ泉のため入浴時間は3〜10分程度にし、長湯しないように書かれていました。イオウ成分が目に影響することもあるので、浴槽のお湯で顔を洗うなだとか、飲用しないよう注意されています。
男性用の薬師の湯もありました。こちらは女湯以上に人出入りがあったなぁ。
もうひとつ、「花染の湯」があります。こちらは混浴で、宿坊の裏手側にあるそうです。日が暮れてから行ってみようと思ったら、真っ暗で怖くなって諦めました。雰囲気はこんな感じだそうです。
そういえば、イタコの口寄せは?
恐山の中をだいたい見て回り、ふと思い出しました。そういえば、イタコの口寄せはいったいどこにあったのだろう。調べてみると、イタコの口寄せはいつもいるわけではなく、どうやら時期が決まっているんだそうです。イタコがいるのは、毎年7月20〜24日に行われる恐山大祭と、毎年10月上旬の3連休だけみたい。イタコはいつも恐山にいるものではないのね。イタコの高齢化が進み、人数も減っているとの情報も。
まとめ
ということで、青森県の下北半島にある日本三大霊場「恐山」に行ってきました。天候に恵まれず、その点だけが心残り。でも、その場へ赴き、自分の目で足で確かめて得る感覚はしっかりありました。恐山の場所や自ら運転して登った山道、三途の川や賽の河原、無限にある積み石と静まり返った宇曽利湖... 霊峰として恐ろしいわけではなく、色味の少ない静寂な世界でまわり続ける色鮮やかな風車に、なんとも言えぬ物悲しさを覚えます。
果たして、「人は死ねばお山さ行く」の言い伝え通り、死んだ人間の御霊は恐山にやってくるのでしょうか。このお山を歩いている時に、卒塔婆を抱えたご家族や、風車を手に供養に訪れている方を見かけました。自分は霊感・霊能力の類が一切なく、その類の存在は全くわからなかったのですが、もしかして人によってはビシバシ見えちゃったりするんでしょうか。生き物は誕生した瞬間から死に向かって進みゆくもので、誰しもいつかどこかで命の燈は終わります。それがいつかはわからず、つまりは生きるも死ぬも背中合わせだと思います。これを改めて意識し、そして毎日を大切に過ごさねばと思ったので、そういう意味では訪れてよかったな。
最後に。里帰り中に育児を引き受け「行ってこい」と送り出してくれた両親に感謝です。単純にフリーのひとり旅で気楽だったからではなく、実家に戻ってから恐山の話を振ると「お母さんも昔恐山行ったのよ」と教えてくれて(知らなかった)。その後、親子で共通の話題が見つかり、会話が弾んだことも嬉しかったのです。
終わり。
住所:〒035-0021 青森県むつ市田名部字宇曽利山3−2
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